父の小言は、だいたい二段構えだった

くすっと笑えた日常

夕方のキッチンで、夕飯の支度をしていた時のこと。

フライパンに火をかけ、
鍋の中身を気にしながら、
正直、夕飯に追われていたから余裕がなかった。


「おーい」と呼ぶ父の声

そんな時、居間のほうから父の声がした。

「おーい」

聞こえてはいた。
でも、今は手が離せない。

私は、聞こえないフリをした。


沖縄ことばの第一段

すると少し間をおいて、父が言った。

「ちかんすーなーしー」

沖縄の方言で、
「聞こえないフリ」
「無視するな」
そんな意味の言葉だ。

それでも私は、まだキッチンから動けない。


小言の締めは「いちむしぐぁー」

すると父は、
最後にこう言った。

「ヤナ… いちむしぐぁー」

怒鳴るでもなく、
強い口調でもなく、
どこか拗ねたような一言。

思わず、フライパンを持ったまま笑ってしまった。


父の中では「感じの悪い娘」

忙しくて返事ができなかっただけなのに、
父の中では
「感じの悪い娘」(小さくて身近な虫・動物)
になっていたらしい。


怒りではなく、寂しさだったのかもしれない

今思えば、
父は怒っていたわけじゃなかった。

呼んだのに返事がなくて、
少し寂しくて、
素直に言うのは、きっと照れくさかったんだろうね。

だから
「ちかんすーなーしー」
そのあとに
「ヤナ…いちむしぐぁー」。


文句なのに、憎めない父の小言

文句なのに、
なぜか憎めなくて、
どこか可笑しい。

沖縄の父親の小言は、
だいたいこんなふうに
遠回しで、愛嬌がある。


今だから思う、ありがたさ

あの時の私は、
たしかに「いちむしぐぁー」だったのかもしれない。

でも、
ああやって声をかけてくれる時間があったことを、
今は少し、ありがたく思っているがもうその声は聞こえない。


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