今日は耳が近いみたいですよ
ケア中、職員が言いました。
「この爺さん、耳が遠いから」
私は心の中で思いました。
(いや……遠いのは……耳じゃなくて……話すスピード)
きっかけは、戦場カメラマン
私が
「ゆっくり、はっきり話す」
ことを意識するようになったきっかけがあります。
昔、渡部陽一さんの
インタビューを見たことでした。
戦場では、
間違いなく、正確に伝えなければならない。
その話し方は、
とにかく……
ゆっくり……
はっきり……。
「これ、介護と同じだ」
そう思いました。
現場で真似してみたら
それから介護現場で、
渡部陽一さんを思い出しながら、
ゆっくり、はっきり声をかけるようにしました。
すると、
指示が入りやすくなり、
利用者さんの動きも明らかに変わりました。
この爺さんの場合
試しに、この爺さんにも
同じように話してみました。
すると……
普通に返事が返ってきます。
数日後、また同じセリフ
数日後――
また同じ場面、また同じ言葉。
「この爺さん、耳が遠いから」
私は一瞬考えてから、
にこっと笑って言いました。
「今日は……耳が……近いみたいですよ」
「耳……忘れてないね」
すると爺さんは、
こちらを見て……
ニヤッと笑いました。
耳ではなく、伝え方
どうやらこの爺さん、
日替わりで
「耳が遠い日」と
「耳が近い日」があるらしい。
……もちろん、そんなわけはありません。
違っていたのは、
耳ではなく、
こちらの伝え方。
今日も爺さんの耳は、
絶好調の様子です。



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